とある病院に思うこと~HIV検査その2~

ほぼ全員に実施している「HIV検査」のひとつに、一般的な病院で手術前に実施される「血液検査」があります。

これについて、昨日取り上げた医師の文章から、論点を整理してみようと思います(いろいろツッコミを入れたくなるけど、視点としては問題ないと思うので)。

◆HIV検査は誰もが受けるべき検査か【高山義浩(たかやま・よしひろ)】2010.10.27付※ここでは特に後半部分に注目して下さい。

◆手術の前にHIV検査は必要か【高山義浩(たかやま・よしひろ)】2010.11.8付

●とある病院で、院内感染防止を目的として、HIV検査を手術を受ける患者のほぼ全員に実施していた件

  • その検査費1500円前後は保険適用外となるため、全額が患者の自己負担になっていた
  • 検査の同意のとり方も、他の検査項目に紛れ込むような形式であり、きちんと患者が理解したうえで実施されていたかも疑わしかった
  • この事実を知った厚生労働省は「患者の感染を疑ってではなく院内感染防止が目的の場合、保険給付の対象とすることは適当ではない」と指摘
  • 病院側は「保険が適用されない患者のHIV検査を取りやめた」とし、同意書も新たに作成し、さらに、該当する患者約3万5千人に計6千万円以上を返金することにした
  • これに対し、一部の医師たちは、「実際に感染者を発見することにも貢献しており、院内感染対策上も必要な検査だといえる。保険適用にすべきだ」と反発している

●この医師の見解

  • 日本におけるHIVの感染率は、(外国人を含め)せいぜい数千人に1人程度です。こんな稀な疾患について、ルーチンで検査をするなどムダが多すぎますね。アメリカでは1000人に1人以上であることを根拠にしてルーチン検査を導入したことを考えると、日本はまだまだその段階ではないのだと思います。 ←※前回ご紹介したこの医師の好きなフレーズw
  • しかも、この費用を病院側で負担するならともかく、患者に負担させてしまったのは残念
  • 患者への負担を認める制度として、「保険適応」というものがあります。すでに保険適応になっている手術前のウイルス検査として、B型肝炎とC型肝炎があります。なぜ、HIVはダメなのに、これらは認められているのでしょう? その決定の詳しい経緯を私は知りませんが、どちらの肝炎も、日本国内の感染者数が100万人以上と推計されていることは大きいと思います。つまり感染率は100人に1人かそれ以上となりますから(国立感染症研究所)、ルーチンで検査するだけの意義があると考えて良いでしょうね。
  • 感染対策であれば患者負担にするのはおかしい。マスクや手袋と同様に、感染対策のための費用は診療報酬から捻出すべきです。
  • そもそも院内感染対策の基本的な理念として、すべての患者が何らかの感染症を有するものと考えて防御をとるのが標準的な感染対策ですから、「手術の前にHIV検査が必要」というのは、感染症医の立場からは、ちょっと変な感じがします(まあ、外科医の現場にも言い分は多々あるのでしょうけど・・・)。
  • もしHIV感染者に使用した注射針やメスを(医療関係者が)自分に誤って刺してしまった場合のことを考えると、HIV検査を術前にしておく意義があります。

●平成15年5月28日に東京地裁で判決が出た「HIV無断検査と採用拒否」裁判

※これについては、大変興味深いので『中京大学法学部でまとめた資料(PDF版)』を一読されることをオススメします。

●上記裁判を受けて出された厚生労働省の通達「健疾感発第1029004号」(平成16年10月29日付)

※これについても、通達そのもの『「HIV検査の実施について」の改廃について』を一読されることをオススメします。

●この医師の見解(HIV検査の同意のとり方について)

  • 今回、問題となった医療機関において、どのような同意形式だったのか実物を見ていないので、この司法判断にどれくらい抵触するのか私には分かりません。ただ、伝えられているように、「拒否しなければ実施される形式(オプトアウト)」であったとすれば、やはり私も問題だったろうと思います。
  • アメリカでは新規HIV感染者が年間4万人程度報告されていますが、日本では1000~2000人です。つまり、まだまだ稀な感染症。頻度の面からみた合理性からも、人権に配慮した倫理性の面からも、オプトアウトとするには早すぎたということです。 ←※ほんとこのフレーズが好きですねww

この件について、総括する前に、いくつかの視点が不足しているようなので、もう少し補足しておこうと思います。

それは、この記事の冒頭で簡単に触れていますが。。。

一般的に、手術前にHIV検査を実施している病院は少なくない*ということです(私自身は手術したことがないのでよく分からないけどw)。

*どうやら検査しておいて、その結果を患者に知らせないとんでもない病院もあるようだけど、当然の権利として結果を確認して下さいね!

その意義について、この医師は(勤務する病院で院内感染対策をしているという立場上?)院内感染の防止しか触れていないようだけど。。。

もし、それだけならこの医師も指摘している通り「すべての患者が何らかの感染症を有するものと考えて防御をとるのが標準的な感染対策」だから、検査は不要という事になると考えます。

というか、手術前のHIV検査って、どういうシチュエーションなんでしょうね?

例えば、単に骨折したから外科的な手術を行うといった、およそHIVとは関係ない手術なのか。。。

それとも、肺炎とかガンとかで、HIV感染が疑われる手術なのか。。。(この場合、手術しなくても検査すべきだと思うけどw)

文脈から判断すると、どうやら前者のような気がしますが。。。?

他のサイトの情報も補足しておくと、手術前にHIV検査をする意義としては。。。

  1. 仮に、患者本人がHIVに感染していた場合、早めにHIVの治療も進める必要があるため
  2. 万一、手術前後にHIV感染が分かった場合、手術が原因なのか、もともとなのか判断するため
  3. 院内感染防止

という大きく3つの意義があるようですね。

HIV感染者の立場で見れば、上から順に重要な気がするけど。。。どうやらこの医師をはじめ医療関係者から見れば、下から順に重要だと考えているようですね(苦笑)

もうひとつ欠落している視点があります。それは「HIV検査」そのものについてです。

これについては、この医師も検査には二段階(一次検査と二次検査)あって、お金も時間もかかると(ご紹介した文章の冒頭で)簡潔にまとめられているけど。。。

「ウィンドウピリオド(ウィンドウ期)」の視点が抜け落ちていますよねw

勉強の出来る方なので、当然、知っていると思うけど。。。意図的に触れていないのかな?

これまでも本ブログでまとめてきたように、HIV検査をしても、正確に結果が出ない期間(ウィンドウ期)があって、しかも感染確率を強調するのであれば、かえってそちらの方が感染確率が高いという視点は、決して無視できないことだと思います。

そう考えると、やはり「すべての患者が何らかの感染症を有するものと考えて防御をとるのが標準的な感染対策」だから、ますますHIV検査は不要のような気もするけど。。。

唯一、気になるのは、上でまとめた意義の2つ目「手術のせいでHIV感染したのか判断するため」という点ですよね。

薬害エイズの問題を取り上げるまでもなく、医療機関が行う医療行為がすべて安心できるとは限らないわけで。。。

HIV検査したら陰性だったから(ウィンドウ期かもしれないのにw)といって、手抜きした感染対策しかせず、そのために感染させられたら。。。なんて思うと恐ろしいですよねww

患者の立場では、そういった医療機関の実態は分からないけど。。。できるだけ安心できる病院にかかりたいものです(HIV・エイズの拠点病院など**は、その点でもきちんと対応しているから安心できるのかも)。

**拠点病院診療案内を参照して下さい。

最後に、もうひとつ補足するとしたら、別に恐ろしい感染症は「HIVに限らない」ということです。

一般の人のイメージとして、恐ろしい感染症の象徴的なものとして「HIV」があるから、手術前にHIV検査を実施していると聞いただけで、「安心できる病院♪」と楽観している方もいるようだけど。。。

最近話題になった「エボラ出血熱」をはじめ、「重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)」など、研究が進んでいなくて治療薬も存在しない感染症の方がずっと深刻です。

もちろん自分のようなHIV感染者は、これ以上HIVに感染しないから安心というものでもなく、逆にいろんな感染症(タイプの違うHIVや薬剤耐性のあるHIVを含む)に罹りやすいので、普通の人以上に神経質にならなくちゃいけないということは指摘するまでも無いことです。

前回今回と、医師と病院に、ちょっと否定的な記事をまとめてみましたが、不快に思われた方も少なくないかもしれませんね。

ただ、勉強不足の医師は少なくないので、(HIV感染者でなくても)自分なりにきちんと勉強しておくことは非常に重要なことだと思います。

さいわい昔と違って、情報はたくさんありますからね。逆に、情報がありすぎて、正確で無い情報も紛れ込んでいることには注意しましょう!

HIV・エイズ関連情報では、本ブログで(一部勝手に)リンクさせてもらっている「ACC」が最も正確だと考えて間違いないと思います(医師向けに情報を発信している存在ですから)。

ちょっと専門家向けの情報だから、分かりづらいと思う方は、ブロック拠点病院のサイト等も参考にするといいと思いますよ^^

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4 Comments
  1. 「万一、手術前後にHIV感染が分かった場合、手術が原因なのか、もともとなのか判断するため」に術前HIV検査を実施する意味はありません。後からでも調べられますから・・・。私は術前HIV検査は原則として不要だと思ってますが、やるとすれば「院内感染対策」としてだと思いますね。

  2. 何故か投稿出来ませんでした。何度もすみません。6、7年前にゴム無しで1回してしまいました。蕁麻疹などは1度もなく産婦人科で子宮癌検診や血液検査でホルモン数値などを、してます。何も言われてないですが心配です。今、かなりひどめの風邪をひいてまして不安です。 大丈夫でしょうか?

    • こんにちは。コメントありがとうございます。

      >産婦人科で…何も言われてないですが心配
      >かなりひどめの風邪をひいてまして不安…大丈夫でしょうか?

      HIV感染という意味であれば、感染しているかどうかを判断するのは「HIV検査をすること」しか方法がありませんので、お近くの保健所等で検査してみて下さい。

      HIV検査を受けずに、病状だけから感染しているかどうかなんて判断することは、専門医でも無理です^^;

      具体的に何か病状があって気になっているのであれば、あれこれ悩まずに医者に診てもらうのが一番安心できると思いますよ^^

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